「耳をひらく」

佐々木基之著「耳をひらいて心まで」より


私は五十年前、ふとしたことから、分離唱という独自の音楽教育法を始めました。ピアノ(有鍵楽器)で鳴らした和声と人声を合わせることによって、耳の働きが違ってくるのです。ピアノで和音(三つの音)を奏きながら、そのなかの一つの音を歌う__という簡単な作業ですが、分離唱によって培われ、磨かれた能力は、音楽のすべてを把握できる重要な基礎となるもので、分離唱は音楽教育の根本土台を築く作業です。五十年間やるほどに、一層この思いがつのるばかりです。


ピアノで和音を奏いて、その和音のなかの一声音をうたいながら、ピアノをよく聴いていると、自分のうたう声がピアノの響きのなかに溶け込んでいくような感じがします。この境地を体験することによって、耳がひらくのです。耳は意識しなくても聞こえますが、耳をひらくとは、聞こえるけれど聞こえない耳の働きを意識的に変えていくことです。





studio Kattini

音と動き、あるいは音、こころ、からだ、ひとをつなぐスタジオ

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